高齢者が不動産取引を行う場面は、今後ますます増えていくと予想されます。老後の資金確保や生活環境の改善といったメリットがある一方で、高齢者特有の注意点も存在します。本記事では、高齢者の不動産取引のメリットや注意点について詳しく解説し、トラブルを未然に防ぐためのポイントをご紹介します。
目次
1.高齢者の不動産取引が増加している背景
現在、日本では総人口が減少傾向にありますが、高齢者の数は逆に増加しています。2023年10月のデータによると、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は29.1%と過去最高を記録しました。この割合は、世界でも特に高い水準です。
日本の高齢化の進行度合いは、「高齢化社会」「高齢社会」「超高齢社会」の3段階で表されます。高齢化社会とは65歳以上の人口が総人口の7%を超える状態を指し、高齢社会は14%、超高齢社会は21%を超える状態を指します。日本はこれらの定義に基づいて「超高齢社会」に分類されます。
また、平均寿命も延び続けており、2023年の男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.14歳となっています。このような背景から、老後の生活資金を確保するために、持ち家を売却したり、生活のしやすい新しい住まいに移る高齢者が増えると考えられます。
2021年のデータによれば、65歳以上の高齢者のうち、一戸建ての持ち家を所有している人は75.6%、集合住宅(分譲マンションなど)を所有している人は11.8%にのぼります。これらの数字は、多くの高齢者が不動産を所有しており、その取引が今後増加する可能性が高いことを示しています。
2. 高齢者が不動産取引を行うことのメリット
高齢者が不動産取引を行う主なメリットとして、以下の3つが挙げられます。
(1)老後の資金を確保できる
所有している不動産を売却することで、老後の資金を得ることが可能です。特に、使われていない空き家や空き地を持ち続けることは、固定資産税や管理費などの費用がかかるだけでなく、維持管理の手間も必要となります。立地が良く評価が高い物件ほど維持コストも高くなりやすいため、早めに売却して現金化することが有利です。
(2)相続手続きが円滑になる
不動産は物理的に分割が難しく、相続時に複数の相続人がいる場合、トラブルの元になることがあります。しかし、不動産を売却して現金化しておくことで、相続時に分配がしやすくなります。現金であれば、相続人間での公平な分割が可能となり、相続トラブルを回避することができます。
(3)生活に合った住環境に住み替えられる
高齢者にとって、生活のしやすい住環境に住み替えることは非常に重要です。年齢を重ねると、これまでの住居が不便になる場合があります。例えば、階段の多い家や交通アクセスが悪い場所などが挙げられます。新しい住まいを選ぶ際には、駅近の物件やスーパーや病院が近くにある場所、将来の介護を見据えたバリアフリーの住宅など、より快適な生活環境を選ぶことができます。
3. 高齢者が不動産取引をする際の注意点
高齢者が不動産取引を行う際には、若い世代と異なる注意点があります。
(1)賃貸物件への入居が難しい場合がある
高齢者が不動産を売却して賃貸物件に住み替えようとしても、審査が厳しく入居が難しいことがあります。これは、収入が年金のみで安定しないと見なされることや、孤独死のリスクが懸念されるためです。しかし、高齢者向けに特化した賃貸物件も増えてきており、シニア世代が安心して暮らせる環境が整いつつあります。
(2)住宅ローンの利用が難しい
高齢者が新しい住居を購入する際、住宅ローンの審査で年齢制限に引っかかることがあります。多くの金融機関では、借入時や完済時の年齢に制限を設けているため、高齢者がローンを組むのは難しい場合があります。ただし、最近では高齢者向けの住宅ローン商品や年齢制限を引き上げる金融機関も増えているため、諦めずに相談することが大切です。
(3)意思能力の低下によるリスク
高齢者が不動産取引を行う際、意思能力や判断能力が低下していると、取引そのものが無効になる可能性があります。認知症などによって意思能力がないと判断された場合、その取引は法律上無効となります。取引を行う前に、意思能力の確認をしっかり行うことが重要です。
4. 意思能力が低下している場合の成年後見制度の活用
意思能力が低下していると判断された場合、高齢者本人が不動産取引を行うことはできません。その場合、成年後見制度の利用が推奨されます。成年後見制度は、認知症や知的障害などで意思能力が低下している方を保護するための制度です。この制度を利用すると、家族や後見人が本人に代わって財産管理や契約手続きを行うことができます。
後見人は家庭裁判所により選任され、適切な財産管理を行います。また、専門の職業後見人(社会福祉士、税理士、行政書士、司法書士など)が後見人となることも可能です。成年後見制度の利用に関する詳細は専門機関に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
5. 不動産会社への相談の重要性
高齢者が不動産取引を検討する際には、専門の不動産会社に相談することが非常に重要です。信頼できる不動産会社は、取引におけるリスクや注意点を的確にアドバイスし、高齢者が安心して取引を進められるようサポートしてくれます。特に高齢者向けのサービスを提供している不動産会社を選ぶことで、より細やかなサポートが期待できます。
不動産取引は人生の大きな決断です。適切な情報をもとに慎重に判断し、信頼できる専門家と連携して進めることが、高齢者の皆様にとって最良の選択肢となるでしょう。
まとめ
高齢者の不動産取引は、資産を有効に活用し、より良い生活環境を築くための重要な手段です。しかし、年齢を重ねたことによる特有のリスクも伴います。取引を成功させるためには、適切な準備と専門家の助言が欠かせません。安全で安心な不動産取引を行うために、本記事で紹介したポイントをぜひ参考にしてください。